弁理士が登場するテレビドラマ

今回の新着情報は、テレビドラマについてです。

4月12日(水)から読売テレビ(日本テレビ系列)で「それってパクリじゃないですか」というテレビドラマが始まりました。
今まで、下町ロケットなど、知的財産権(特許権が主です)が重要な要素となるドラマはいくつかありましたが、登場するのは弁護士のみで、知的財産権に直接携わる「弁理士」が登場するドラマはありませんでした。
少し調べてみたところでも、士業が登場するドラマは、弁護士は数多く、その他の士業も税理士(TBS:税理士楠銀平の事件帳簿)、行政書士(フジテレビ:カバチタレ)、公認会計士(NHK:監査法人)、司法書士(地方局:奮闘!びったれ)などがありましたが、やはり弁理士が登場するドラマは発見できませんでした。
そんな中、今回、弁理士がしかも主役(?)で登場するドラマが始まりました。画期的なことだと思います。

第一回の感想ですが、知財の要素をうまく散りばめながら、ジャニーズWESTの重岡大毅さん演じる「北脇弁理士」の活躍(?)もあって、芳根京子さん演じる「藤崎亜季」の無実を証明しつつハッピーエンドになるという、楽に見ることができるドラマになっていました。
また、監修に入っておられる西野弁理士は、弁理士が通常行っている出願~権利取得の実務はもとより、ライセンス交渉や知財訴訟も数多く経験しておられる方なので、知財面からの裏付けも誤りがなく、正確に描けていると思いました。
尤も、最後の社長のオチはドラマだなぁと思いましたが・・・(テレビに向かって、そんなアホなって思わずツッコんでしまいました(笑))

さて、前置きが長くなりましたが、第一回のテーマは「冒認出願」と、それに伴う「権利移転請求」という事案でした。
少し解説をしますと、「冒認出願」は、完成した他人の発明を無断で(盗んで)自分の発明として出願した出願のことを言います。
本来、このような出願は特許庁の審査において拒絶されるべきものなのですが、特許庁は出願書類に記載されている発明者が真の発明者であるか否かを確認する手段がありません。
なので、冒認出願に係る発明が既に公知の技術でない限り、「冒認出願」にも特許権が付与されること(謂わば「冒認特許」)になります。
そして、この「冒認出願」、「冒認特許」の内容は公報として発行されることになります。(この点が非常に重要なポイントになります。ドラマでも「特許公報」が映し出されるカットがありましたよね。)
一方、真の発明者は、盗まれた自分の発明を正式に自分の出願として出願を行い、権利化したいところです。
ところが、盗まれた自分の発明の内容は、既に「冒認出願」、「冒認特許」の公報として公表されてしまっていますので、真の発明者の出願は「冒認出願」、「冒認特許」の公報と同じ内容(発明)であるとして拒絶されることになります。
従って、以前は、真の発明者は自分の権利として権利化をすることができず、権利が付与された「冒認特許」に対して無効審判を請求して権利を消滅させることしかできませんでした。
このように、以前は、真の発明者は泣き寝入りするしかなかったのです。

しかし、最高裁判所によって、このような冒認出願が特許になった場合、真の発明者は冒認出願であることを証明すれば権利を自分のところに移転させることができる(自分の手に取り戻すことができる)、との判決がなされました(平成9年(オ)1918号:平成13年6月12日判決・民集55巻4号793頁)。
そして、この最高裁の判決を受けて、平成23年に特許法の改正が行われ「冒認出願に伴う権利移転請求」が、特許法第74条として規定され、認められることになりました。

なお、この「冒認出願に伴う権利移転請求」は、制度としては存在するのですが、実務としてはほとんどなされることはありません。
恐らく、9割近くの弁理士はやったことがない手続だと思います。(当職も約16年弁理士をやっていますが、一度も経験したことがありません。)
冒認された側としては、冒認をされた(技術が盗まれた)こと自体を世間に明らかにしたくないですし、ドラマのように両者間で権利譲渡を行うなど内々で解決したり、或いは回避手段を考えるのが通常だからです。(ドラマでも、月夜野ドリンクの開発者たちがハッピースマイル社の「冒認特許」を回避する手段を考えていましたよね。)
以上が解説になります。

第一回は非常にレアなケースを題材にしていましたが、予告によると第二回はパッケージの類似という、実務でもよくある事案がテーマのようですので楽しみです。