月: 2023年10月

ラグビーと特許

今回は少し趣を変えて、くだけた記事をUPさせて頂きます。

昨日、ラグビーワールドカップの第10回フランス大会の決勝戦が行われ、南アフリカ代表がニュージーランド代表に12-11で勝利し、2大会連続、4度目のラグビー世界一に輝きました。
今回のフランス大会はラグビーワールドカップ史上最多の観客動員数(200万人以上)になりそうだということです。
前回の第9回日本大会も大変な盛り上がりを見せ、日本中がラグビー一色で湧きかえりました(観客動員数:約170万人、台風のため3試合は中止)。
弊所も開所10周年にあたったことから、記念イベントを開催し、お客様をご招待させて頂きました。
大変喜んで頂くことができ、良い思い出となっています。

さて、今回の決勝戦は、両チームのキャプテンが行った頭部へのタックルについて、両者に審議付きのイエローカードが提示され、その後の審議結果が勝敗に大きく影響を及ぼすことになりました。(ニュージーランド代表のキャプテン:レッドカードに格上されて退場処分、南アフリカ代表のキャプテン:イエローカードの判定が維持されて10分後に試合復帰)
ラグビーはレフリーの判断が絶対(レフリーの判定に抗議する行為自体が反則)なので、これは致し方の無いことなのですが、世界のラグビーメディアは今回の判定は正しいものだったのか(統一性が担保されていたのか)という論評を展開しています。

このような論評が展開されてしまうのは、タックルの危険度を判断する指標がレフリー団(人間)の所見のみであることに起因しているからなのですが、近年、この判断のバラツキを無くそうという試みが行われています。
概要としては、ラグビー選手は通常、衝撃に備えるためにマウスピースを口の中に入れてプレイをしているのですが、そのマウスピースに衝撃を感知するセンサを内蔵して、タックルを受けた際の衝撃度が一定の数値以上になった場合には強制的に一時退場させて専門医によるHIA(Head Injury Assessment:頭部外傷評価)を受診させたり、或いはその衝撃度に応じてイエローまたはレッドの判定を自動的に行おうという試みが行われています。
今回のフランス大会(男子大会)では採用されませんでしたが、2022年に開催された女子のラグビーワールドカップ(ニュージーランド大会)では既に試験的な導入が行われています。
「スマートマウスガード技術(smart mouthguard technology)」と言われるもので、米国のPREVENT BIOMETRICS社によって開発された技術になります。
同社は、係る「スマートマウスガード技術(smart mouthguard technology)」を用いたマウスピース(IMPACT SENSING MOUTHGUARD:写真1写真2)について特許出願も行っています(WO2020102378)。
具体的には、マウスピースを内枠(102、106)と外枠(108)に分割して、この内枠と外枠の間に回路を構成したシート状の部材(104)を挟み込む構造になっています。
そして、回路には、「衝撃測定、活動追跡(例えば、歩数カウント、活動認識、位置デッドレコーディング)、生体測定モニタリング(例えば、心拍数、体芯温、呼吸数、血圧、血中酸素飽和度など)、位置決定(例えば、既知の位置ビーコンに基づく定義された環境内のGPS位置または三角測量位置)、および他の機能のための1つまたは複数の回路を含むことができる。」と記載されています。
当該出願は、米国、欧州、オーストラリアに移行手続がなされており、欧州においては特許査定を受けています。(特許番号:EPB3880111
このような技術が実用化されたのも、半導体の技術が進歩し、口の中に入れても違和感がない程、センサ機能やアンテナ機能を小型化・薄型化することが可能になってきたからです。

なお、世界のラグビーを統括しているワールドラグビーは、この取り組みを選手の福祉(player welfare)のためと言っているのですが、ワールドラグビーがこのマウスピースの導入を進めているのには、実は訴訟リスクの低減という側面もあります。
日本ではあまり報道されていないのですが、現在、英国においては元代表選手たちが集団訴訟を起こしています。(記事1記事2記事3記事4
具体的には、現役中に受けた頭部への衝撃が原因で若年性認知症や慢性外傷性脳症(パンチドランカー症候群)を発症したとして、ワールドラグビーや所属していた協会に対して過失に基づく損害賠償請求訴訟を起こしているのです。

つまり、ワールドラグビーとしては、このような状況(安全管理に対する法的な過失を問われるような状況)が常態化してしまうと、ラグビーというスポーツが存続できなくなってしまう可能性もあるので、頭部へのタックルに対する安全管理や反則(罰則)の強化を行うことで、そのようなタックルの防止を図ろうとしているという背景があります。
そして、その一環としてIMPACT SENSING MOUTHGUARD(衝撃感知マウスガード)の本格導入も検討されています。