月: 2023年4月

「それってパクリじゃないですか?」第2回放送について

今回の新着情報もテレビドラマ「それってパクリじゃないですか?」に関するものになります。
このドラマに関する記事を毎回UPすることはしないつもりだったのですが、書いておきたいことがありましたので、今回(のみ?)UPしたいと思います。

第2回のテーマは「パッケージの類似」でした。また、サブテーマとして「パクリとパロディの違い(境界線)は?」というものもありました。

放送をご覧になった皆さんはどういう感想をお持ちでしょうか?
「ハッピーエンドになってよかった」、「分かり易かった」、「内容が難しかった」など色々な感想をお持ちかと思いますが、当職はあるセリフが印象に残りました。
それは、主演の芳根京子さん(藤崎亜季)が言った、「これは気持ちの問題なんです。」というセリフです。
上手い表現だと思いました。(因みに、重岡大毅さん(北脇弁理士)は「問題は、悪意の有無ではなく、配慮の有無です。」と言っていましたが、少しわかりにくいかなぁと思いました。)

そうなんです。我々、知財で飯を食っている者は、やれ「外観だ」、「称呼だ」、「取引の実情だ」、「審査基準だ」、「判例だ」など、色々理屈を並べて類否判断をしている(しているような気になっている?)のですが、実際のところ、類似しているのかしていないのか(パクリなのかパロディなのか)は、オリジナルの側の「気持ち」の問題なのです。
ドラマでも主人公の藤崎亜季が、パクリとパロディの違い(境界線)について考え続けていました。
ドラマでは、その境界線(判断基準)はこれだ!、みたいな明確な言及はありませんでしたが、その境界線(判断基準)は、正に「気持ちの問題」という言葉に集約されていると思います。
つまり、オリジナル側が「気持ち」として許せる(許容できる)のであれば明らかに類似していてもそれはパロディになりますし、オリジナル側が「気持ち」として許せない(許容できない)のであれば類似か否かが微妙であってもそれはパクリになってしまう、ということです。

その証拠とまでは言えないかもしれませんが、ドラマでは実際にあった「白い恋人(石屋製菓)」と「面白い恋人(吉本興業)」の係争事件が紹介されていました。
ドラマでは、単に和解が成立した、としか触れられていませんが、実際に両社間で約8年、裁判所で争った上でなされた和解内容(概要)は以下のようなものです。https://news.ntv.co.jp/category/society/223103

(1)吉本興業側はパッケージの図柄を変更する。
(2)吉本興業側は(1)のパッケージ内容で「面白い恋人」の販売を行うが、関西6府県でのみ販売を行い、それ以外の地域での販売は原則行わない(近畿以外の地域における物産展などでの販売は例外的に認められる)。
(3)賠償金は発生しない。

皆さんはこの和解内容についてどういう感想を持ちますか?
図案変更や販売地域の限定はありますが、吉本興業側は「面白い恋人」の販売を継続できるという結果を得ました。
石屋製菓側は、少なくとも自社の最大の商圏である北海道や東京では「面白い恋人」の販売を止めさせることはできました。
しかしながら、賠償金を勝ち取ることや「面白い恋人」自体を葬り去ることはできませんでした。
石屋製菓としては大満足という結果ではなかったと思いますが、8年もの時間をかけて争ったのは、どうしても許せないという、正に「気持ちの問題」だったんじゃないかと思います。

最後に、当職の感想だけでは新着情報になりませんので、少し解説をしたいと思います。

今回のような「パッケージ」に関して、類似しているのか・していないのかの判断(類否判断といいます)は、商標法からのアプローチと不正競争防止法(以下、不競法)からのアプローチがあります。

商標法からのアプローチとしては、まず、両者の「商標」と「商品(または役務)」を特定します。
具体的には、月夜野ドリンクが保有している商標権の内容は、商標が「緑のお茶屋さん」で、指定商品は恐らく「清涼飲料(お茶)」ではないかと思います。
一方、落合製菓が実施しているパッケージ内容は、ネーミングが「緑のおチアイさん」で、商品は「チョコレート」です。
まとめると以下のようになります。
 商標:「緑のお茶屋さん」vs「緑のおチアイさん」
 商品:「清涼飲料」vs「チョコレート」
次に、パクリ側の「商標」と「商品」が、オリジナル側が保有している商標権の「商標」と「商品」の範囲に属しているか否かを検討します。
この際、月夜野ドリンクの主張としては、以下のようなものが考えられます。
「緑のお茶屋さん」と「緑のおチアイさん」は、称呼(読み方)において「ミドリノオチャヤサン」と「ミドリノオチアイサン」であり、相違する箇所は「ャヤ」と「アイ」のみであり、10文字中8文字(80%)が一致しているので、商標として類似であるという主張。
「清涼飲料」と「チョコレート」は、需要者の範囲が一致している(商標審査基準)など、取引の実情から総合的に判断すると類似する関係にあるという主張。
従って、「緑のおチアイさん」は、「緑のお茶屋さん」との間において「商標」と「商品」が類似する関係にあり、月夜野ドリンクの商標権を侵害しているという主張。
しかしながら、両者の「商標」と「商品」は、いずれも同一ではなく、あくまでも類似していると見ることもできるという程度です(非類似と見ることもできる)ので、月夜野ドリンクの主張が認められるのかは微妙だと思います。(最初、北脇弁理士が二の足を踏んでいたのはこのような理由があるからだと思います。)

不競法からのアプローチとしては、まず、両者のパッケージの内容を特定します。
ここで、不競法においては対象となるのは、両者の実際のパッケージ内容(デザイン)になります。(商標権の有無は関係ありません。)
そうすると、両者のデザインは似ていますよね。
しかしながら、不競法はそれだけでは権利侵害にはなりません。
不競法において権利侵害と認定されるためには、デザインが似ているだけではダメで、オリジナル側のデザインが需要者の間で広く認識されているもの(周知)でかつ両者が混同している(不競法2条1項1号)か、或いはオリジナル側のデザインが著名(『超』周知ということです)であること(不競法2条1項2号)が必要になります。
この点、ドラマでは「緑のお茶屋さん」は大ヒット商品という設定で、落合製菓は月夜野ドリンクのパッケージデザインの変更に追随して、意図的に「緑のおチアイさん」のパッケージデザインも変更しているという設定になっていました。
恐らく、制作者側としては、不競法2条1項1号(周知かつ混同)に該当するという方向に誘導したいのではないかと思われます。(北脇弁理士が自分でも調査をしてみると言っていたのは、これだったら勝算があると考えたのではないかと思います。)

なお、ドラマではOEM(Original Equipment Manufacturer:他者ブランドの受託製造)という解決策が提案され、ハッピーエンドになりました。
ドラマとしてはいいアイデアと思いますが、残念ながら、ビジネスの世界はそれほど甘くはないので、実務ではこのような落としどころはほとんどありません。(最後は、北脇弁理士みたいになってしまいました(笑))

GWの営業について

弊所は、開所以来、GW・お盆・年末年始を問わず、特許庁が開庁している日は営業することにしております。
従いまして、GW期間につきましても以下のスケジュールで営業・稼働しておりますのでよろしくお願い申し上げます。

~4月28日(金)        :通常営業
4月29日(土)、4月30日(日):休日・祝日
5月1日(月)、5月2日(火)  :通常営業
5月3日(水)~5月7日(金)  :休日・祝日
5月8日(月)~         :通常営業

弁理士が登場するテレビドラマ

今回の新着情報は、テレビドラマについてです。

4月12日(水)から読売テレビ(日本テレビ系列)で「それってパクリじゃないですか」というテレビドラマが始まりました。
今まで、下町ロケットなど、知的財産権(特許権が主です)が重要な要素となるドラマはいくつかありましたが、登場するのは弁護士のみで、知的財産権に直接携わる「弁理士」が登場するドラマはありませんでした。
少し調べてみたところでも、士業が登場するドラマは、弁護士は数多く、その他の士業も税理士(TBS:税理士楠銀平の事件帳簿)、行政書士(フジテレビ:カバチタレ)、公認会計士(NHK:監査法人)、司法書士(地方局:奮闘!びったれ)などがありましたが、やはり弁理士が登場するドラマは発見できませんでした。
そんな中、今回、弁理士がしかも主役(?)で登場するドラマが始まりました。画期的なことだと思います。

第一回の感想ですが、知財の要素をうまく散りばめながら、ジャニーズWESTの重岡大毅さん演じる「北脇弁理士」の活躍(?)もあって、芳根京子さん演じる「藤崎亜季」の無実を証明しつつハッピーエンドになるという、楽に見ることができるドラマになっていました。
また、監修に入っておられる西野弁理士は、弁理士が通常行っている出願~権利取得の実務はもとより、ライセンス交渉や知財訴訟も数多く経験しておられる方なので、知財面からの裏付けも誤りがなく、正確に描けていると思いました。
尤も、最後の社長のオチはドラマだなぁと思いましたが・・・(テレビに向かって、そんなアホなって思わずツッコんでしまいました(笑))

さて、前置きが長くなりましたが、第一回のテーマは「冒認出願」と、それに伴う「権利移転請求」という事案でした。
少し解説をしますと、「冒認出願」は、完成した他人の発明を無断で(盗んで)自分の発明として出願した出願のことを言います。
本来、このような出願は特許庁の審査において拒絶されるべきものなのですが、特許庁は出願書類に記載されている発明者が真の発明者であるか否かを確認する手段がありません。
なので、冒認出願に係る発明が既に公知の技術でない限り、「冒認出願」にも特許権が付与されること(謂わば「冒認特許」)になります。
そして、この「冒認出願」、「冒認特許」の内容は公報として発行されることになります。(この点が非常に重要なポイントになります。ドラマでも「特許公報」が映し出されるカットがありましたよね。)
一方、真の発明者は、盗まれた自分の発明を正式に自分の出願として出願を行い、権利化したいところです。
ところが、盗まれた自分の発明の内容は、既に「冒認出願」、「冒認特許」の公報として公表されてしまっていますので、真の発明者の出願は「冒認出願」、「冒認特許」の公報と同じ内容(発明)であるとして拒絶されることになります。
従って、以前は、真の発明者は自分の権利として権利化をすることができず、権利が付与された「冒認特許」に対して無効審判を請求して権利を消滅させることしかできませんでした。
このように、以前は、真の発明者は泣き寝入りするしかなかったのです。

しかし、最高裁判所によって、このような冒認出願が特許になった場合、真の発明者は冒認出願であることを証明すれば権利を自分のところに移転させることができる(自分の手に取り戻すことができる)、との判決がなされました(平成9年(オ)1918号:平成13年6月12日判決・民集55巻4号793頁)。
そして、この最高裁の判決を受けて、平成23年に特許法の改正が行われ「冒認出願に伴う権利移転請求」が、特許法第74条として規定され、認められることになりました。

なお、この「冒認出願に伴う権利移転請求」は、制度としては存在するのですが、実務としてはほとんどなされることはありません。
恐らく、9割近くの弁理士はやったことがない手続だと思います。(当職も約16年弁理士をやっていますが、一度も経験したことがありません。)
冒認された側としては、冒認をされた(技術が盗まれた)こと自体を世間に明らかにしたくないですし、ドラマのように両者間で権利譲渡を行うなど内々で解決したり、或いは回避手段を考えるのが通常だからです。(ドラマでも、月夜野ドリンクの開発者たちがハッピースマイル社の「冒認特許」を回避する手段を考えていましたよね。)
以上が解説になります。

第一回は非常にレアなケースを題材にしていましたが、予告によると第二回はパッケージの類似という、実務でもよくある事案がテーマのようですので楽しみです。