年: 2026年

AIと知財

今回の新着情報は前回の新着情報に関連する話になりますが、知財分野におけるに関する司法判断(判決)が日米両国で相次いで示され、知財分野におけるAIの位置づけについて1つの結論が出たので、当職の所感と合わせてUPしたいと思います。

裁判の概要は、DABUS(ダパス)というAIが創作した発明・絵画について、AI自体が発明者・著作者になれるのか否かについて争われたもので、判決は「AI自体は発明者・著作者にはなれない」というものです。
なお、知財の世界(特許権や著作権の世界)では、発明者・著作者が出願および権利取得をする権利(権原)を原始的に保有することになりますので、AI自体が発明者・著作者になれるのか否かということを法律的にどのように考えるのかは、実は根本的な命題であり、非常に重要な解釈になります。(厳密に言うと商標だけは少し異なるのですが、その他の知的財産権は全て、創作した者が出願および権利取得をする権利(権原)を保有することになっています。)

具体的には、まず、日本においてはDABUSを発明者とする特許出願がなされたのですが、以下の経緯をたどって裁判となり、最終的(控訴審)に原告(出願人側)の敗訴となりました。
(1)コンピューター科学者のスティーブン・ターラー氏(Stephen Thaler)が、DABUSに発明を考えるよう命令し、DABUSが回答(出力)したフラクタル形状を用いた容器の構造について、発明者をDABUSとし、出願人をスティーブン・ターラーとするPCT出願を行った。(PCT出願はその後、公開番号WO2020079499として国際公開)
(2)スティーブン・ターラー氏は、当該PCT出願を基礎とする日本出願(特願2020-543051)を行った。
(3)日本出願の審査段階(方式審査)において、日本国特許庁から「発明者は人(自然人)の氏名を記載しなければならない」との補正命令を受ける。
(4)出願人であるスティーブン・ターラー氏は、これを不服として、行政不服審査法に基づく審査請求を行ったが、審査請求を棄却する裁決がなされたので、出訴。
(5)第一審(東京地裁)、控訴審(知財高裁:令和6年(行コ)第10006号)とも、原告(出願人)が敗訴。
なお、原告(出願人)は上告することが可能ですが、上告審は事実審ではないので、結論は変わらないと思われます。つまり、司法判断として結論が事実上、確定したものとなっています。

次に、米国においては、DABUSが創作した絵画について著作権申請がなされたのですが、以下の経緯をたどって裁判となり、最終的(米連邦最高裁判所)に原告(出願人側)の敗訴となりました。
(1)スティーブン・ターラー氏(Stephen Thaler)が、DABUSに絵画の創作を行うよう命令し、DABUSが回答(出力)した絵画について、米著作権局に著作者をDABUSとする連邦著作権の登録を申請した。(因みに、作品名をA Recent Entrance to Paradise(楽園への新たな入り口?)と言うのだそうです。)
(2)米著作権局は、著作権の成立には人間の著作者が必要であるとして申請を却下。
(3)スティーブン・ターラー氏は、これを不服として、出訴。
(4)第一審(コロンビア特別区連邦地方裁判所)、控訴審(連邦控訴裁判所)、上告審(連邦最高裁判所)とも、原告は敗訴し、司法判断として結論が確定したものとなっています(資料)。

このように日米ともに「AI自体は発明者・著作者にはなれない」という判断が示されたのですが、この2つの司法判断をどう評価するのかについては注意が必要です。
その理由は、結論(判決)に至った根拠(論旨)が、日米ともに「そもそも法律には、発明者・著作者となるのは「者」、すなわち人(自然人)としか記載されていないから」というものだからです。(細かい話になりますが、法律は「者」、「物」、「もの」を使い分けており、これが非常に重要な意味を持ちます。)
つまり、今の法律はAI自体が創作をすることを想定せずに制定されているものであるため、今の法律を適用する限りにおいては「AI自体は発明者・著作者にはなれない」という結論しか導けない、ということなのです。

しかしながら、AIが創作した発明や著作物(以下、AI創作物と呼びます)は、今後ますます増加していくことが予想されます。そして、これらAI創作物には、その全てについて当然に知的財産権が発生し、その中にはビジネス上、価値を持つ物も出てくることが予想されます。従って、AI創作物に基づいて発生する知的財産権の取扱いが問題となるケースが増加していくことが予想されます。(既に、弊所の無料相談会においても、AI創作物を用いたビジネスを考えられている方が相談に来られ始めています。)

このような知的財産権の取扱いを考える場合、やはり考えなければならないのは、誰が権利者になるのか、言い換えると誰を権利者にするのか、ということです。
この「AI創作物について誰が権利者になり得るのか」については、現在、以下の3つの考え方があります。
(1)原理原則に立ち返って、実際に創作活動を行ったAI自体が権利者になる資格を有するとする考え方。(法律的には「者」を「者および物」や「者およびAI」に改正する?)
(2)そもそもAIは権利者になる資格を有さず、AIに創作を命令した者(人)が権利者になる資格を有するとする考え方。(法律的には「者」はそのまま?)
(3)AI創作物については誰も権利者になれないとする考え方。(法律的にはAI創作物は発明に該当しない旨の規定を新設する?)

そしてこの3つの考え方ですが、今回の判決によって、(1)の考え方は否定されたものとなりました。
そうすると、(2)、(3)のいずれかの考え方を採用することになってくるのですが、(3)のAI創作物に関して無法地帯化とすることについては、トラブルの元になるので法律的に考えにくく、ビジネス(収益を図るという経済活動の根本)の観点から見ても考えにくいと思います。
従って、当職の所感としては、AI創作物について誰が権利者になり得るのかについては、(2)の考え方で議論(法改正の議論)が進んでいくものと予想しています。
また、これを裏付けるように、既に(2)の考え方で特許出願がなされ、特許査定を受けている事例(特許第7734902号)もあります。当該特許は、出願人(特許権者)は人(個人)ですが、実は出願人がAIに命令してAIが実際に創作した発明に関するものです。つまり、AI創作物であっても、発明者および出願人を人(者)にすれば今の法律の下でも問題なく出願ができ、権利が取得できるということになります。

ただ、(2)の考え方で進んで行くと、問題となるケースが今後出てくるのではないかと当職は思っています。
具体的には、AIは人間が命令することで動き、回答(出力)しますが、その命令文(プロンプト)の内容や表現によって、生み出される結果物(知財の場合はAI創作物)の内容やレベルも変わってきます。AIを使いこなすためには、命令文(プロンプト)の高い作成能力が求められるのです。
上記した特許(特許第7734902号)も含めて、まだ今のところは或る意味、遊び感覚でAIを使って様々なことを試している段階ですが、今後、AI(半導体)技術が進歩して、ビジネス上においても有用な結果物をAIが生み出すことになってくると、命令文(プロンプト)は複数の人間や組織が関与して試行錯誤しながら緻密に作成されることになってくると当職は思います。
それこそ、多くの技術者・開発者が日々、行っている実験・試作・テストと同じような流れで命令文(プロンプト)の作成作業が行われることになってくると当職は思います。
或いは、最初の命令文(プロンプト)は人間が作成しても、AI創作物を生み出した直接(最終)の命令文(プロンプト)は最初の命令文(プロンプト)の結果物に基づいてAIが作成したものであるというようなこともあり得るかもしれません。
そうなってくると、(2)の考え方でも誰が権利者になる資格を有することになるのかが、よくわからないことになってくるのではないかと思います。
つまり、「誰がAIに創作を命令した者になり得るのか」についてのルール作り(法整備)が必要になってくると当職は思います。
このような観点についての議論や提言は、知財を専門としている学者たちの間でもあまりなされていないように思いますので、注目していきたいと思います。

 

弁理士試験制度の改正

今回の新着情報は、弁理士試験に関するものになります。
先日、再来年度(令和9年度)の弁理士試験から試験制度の一部が変更されることが、特許庁から発表されました。(PDF資料
弁理士試験はこれまでも何回か制度改正が行われてきました。
ただ、今までの改正はどちらかと言えば時代や産業界の要請によるところが大きいものでしたが、今回の制度改正については少し後ろ向きな改正ではないかと当職は感じましたので、当方が最近感じていることも併せて、新着情報としてUPしたいと思います。

まず、弁理士試験は毎年1回行われているもので、一次試験(マークシート試験:5月頃)、二次試験(論文試験:7月頃)、三次試験(口述試験:10月頃)の3段階の試験から構成されています。この点(3段階の試験から構成されている点)については、試験制度の創設以来、変更されていません。

ただ、各試験の内容については、少しずつ改正(変更)が行われています。
因みに、今までの各試験の主な改正点の概要(変遷)は以下のようなものとなっています。

一次試験
 いわゆる「なし解」問題の廃止(大昔は正解の選択肢がない問題がありました。)

二次試験
(1)必須科目の科目数の減少(10時間で10科目→5時間で4科目)
 大昔は特許・実用新案・意匠・商標・条約の5つの科目にそれぞれ2つの問題(各2時間)があり、合計10問(合計10時間)の論文記述をしなければなりませんでしたが、現在は特許・実用新案(条約に関する知識も絡めたもの)が2つの問題(2時間)、意匠が2つの問題(1.5時間)、商標が2つの問題(1.5時間)の合計6問(合計5時間)の論文記述となっています。
 また、現在の必須科目は受験生にどういう措置を採るべきかを考え記述させる「事例問題」が主となっており、暗記が重要となるいわゆる「一行問題(例:特許無効審判制度について説明せよ。)」がほとんどであった、大昔の必須科目とは内容が大きく変わっています。

(2)選択科目の免除制度の導入
 修士・博士の学位を持つ者や一定の公的資格(薬剤師など)を有する者は、選択科目の免除措置を受けることができるようになりました。(なお、当職はこの要件に該当しない者(学士)だったので、選択科目も受験しました。)

三次試験
 今まで大きな改正はなし

今回、二次試験の選択科目について、大幅な改正が行われました。
具体的には、選択科目の見直しが行われ、一部の科目については統合または廃止がなされることになりました。
ここで注目すべきことは、特許庁が今回の改正の理由を「受験者数の減少」としている点です。
あえて誤解を招くような書き方をしますが、上記した今までの改正は、特許庁として、実際の現場で「使える弁理士」を増やしたいという、前向きな意図を持った改正であったと思います。
しかしながら、今回の改正については、受験者が少なくなってしまったので「行わざるを得ない」という、後ろ向きな意図を持つ改正であるように思います。
こんな性質の試験制度の改正は弁理士試験が創設されて以来、初めてだと思います。
試験科目の統廃合をしなければならない程に受験者数が減少しているということ、つまり、弁理士という職業に魅力を感じない人が急速に増えているということに驚いた次第です。

また、弁理士という専門職が時代とともに社会にとって不要になりつつあるのではないかとも当職は思っています。
当職は、兼ねてからAIが進化・普及して現場レベルで使えるものになってくると、分野を問わず全ての士業の業務はそのほとんどがAIに置き換わり、交渉等のごく一部の業務を除いて士業は不要になると思っています。(日本弁理士会などの各士業の業界団体は我々の仕事がAIに置き換わることは一切ない、などと主張していますが、立場上、強がっているだけです。)
弁理士に着目すると、先行調査や、出願・審査・訴訟段階における書類作成という、弁理士業務の大部分を占める業務はAIに置き換わり、本人が弁理士(代理人)に依頼することなく、問題なく行うことができるようになってくると思っています。
極端な話をすれば、当職の世代が弁理士(士業)として独立開業できる最後の世代(だった?)ではないかと思っているくらいです。
今回の弁理士試験の改正は、自分の予想が裏付けられているような感覚を抱いた出来事でした。

新年のご挨拶

謹んで新年のご祝詞を申し上げます。
旧年中は格別のお引立てを賜わり誠にありがとうございました。
お陰様で弊所は開所以来16度目の新年を迎えることができました。
これもクライアント様を始め、皆様のご高配のお蔭と衷心より厚く御礼申し上げます。
本年もご期待に沿えますよう一層精励致しますので、何卒倍旧のご愛顧を賜わりますようお願い申し上げます。

岡特許商標事務所 所長 弁理士 岡 健司