月: 2026年6月

地方自治体の知財意識

今回の新着情報は、当職が知的財産に対する保護の意識の重要性を再認識した事例(館林市のマスコットキャラクターの名称変更事件)を紹介したいと思います。なお、一部、当職の推測が入りますが、事実と異なる部分がありましたらご容赦ください。

先日、群馬県の館林市が、自市の観光キャラクターの名称を「ぽんちゃん」から「たてポン」へ変更することを発表しました(資料記事)。
名称を変更すること自体はそれほど珍しいことではないのですが、今回の名称変更はその理由(変更までに至った経緯)が本来あってはならない事であり、名称変更を決断したその後の館林市の対応にも当職としては釈然としない部分がありましたので、今回新着情報としてUPしたいと思います。

今回の事例の具体的な経緯(時系列)は以下のとおりです。
 (1)2010年、館林市が「分福茶釜」をモチーフにした観光キャラクター(名称を「ぽんちゃん」)を作成し、館林市の観光大使としました(記事)。その際、館林市は当該キャラクターの図案・名称に関する商標出願は行っていません。(因みに、このキャラクターは、2015年に開催された「ゆるキャラグランプリ2015」において総合ランキングで参加総数1721体中、33位になったのだそうです。)
 (2)一方、2021年12月~2022年6月にかけて、E氏(館林市在住の個人のもよう)が「ぽんちゃん」について5件の商標出願を行いました。(なお、その後、この5件の商標出願は2022年6月~2025年9月にかけて全てが登録査定となります。)
 (3)E氏の商標出願の存在を知った館林市は、E氏の商標出願の権利化を阻止すべく、2022年8月~2022年9月にかけて、5件の商標出願の内、1、2件目の商標出願(商標登録)については異議申立を行い、3~5件目の商標出願については特許庁に情報提供を行っています。ここで、1、2件目の商標出願と3~5件目の商標出願に関する対応が異なっているのは、恐らく、1、2件目の商標出願については、E氏の商標出願の存在を把握した時には既に登録査定となっていたためではないかと思われます。そのため、館林市は出願段階では対応することができず、権利化後の異議申立をせざるを得なかったものと思われます。また、無効審判ではなく異議申立を選択したところも、館林市の認識の甘さ(館林市がこの時点で事の深刻さを認識していなかったこと)がよくわかります。
 (4)しかしながら、1、2件目の商標出願(商標登録)に関する異議申立は維持決定(E氏の商標登録は維持)となります。また、3~5件目の商標出願については審査において拒絶理由通知等がなされた(情報提供が考慮されたか否かは不明)ものの、最終的にはいずれも登録査定となり、館林市の「E氏の権利化阻止」という計画は失敗することになります。
 因みに、3件目の商標出願については特に激しい攻防が繰り広げられてます。具体的には、まず審査においては拒絶査定となります。次に、出願人(E氏)側は、係る拒絶査定に対して該拒絶査定を不服とする拒絶査定不服審判を特許庁に請求しますが、審判においても拒絶審決となります。しかしながら、出願人(E氏)側は諦めず、係る拒絶審決に対して該拒絶審決を不服とする審決取消訴訟を知財高裁に提訴します。そして、裁判の結果、知財高裁は出願人(E氏)側に逆転勝訴の判決(拒絶審決を取り消す旨の判決)を言い渡し、その後、特許庁において審査のやり直しが行われ、登録査定となっています。(E氏の凄まじい執念を感じます。)
 (5)館林市は、(4)の結果(特に3件目の結果)を受けて、「ぽんちゃん」の使用断念を決断し、名称を「ぽんちゃん」から「たてポン」へ変更することを発表しました。(なお、キャラクターの図案については当初のものをそのまま継続して使用しています。)

次に、当職が今回の一件について釈然としないと思う点(2点)を述べたいと思います。
 まず1点目は、キャラクターを作成し、使用を開始した2010の時点で、なぜ館林市はキャラクターの図案・名称について商標出願をしなかったのか、という点です。館林市が今回のような後手後手の対応をせざるを得なかった最大の問題点(落ち度)はこの点に尽きます。商標出願さえしていれば、そもそも今回のような騒動は発生しませんでした。行政の怠慢と言っても差し支えないと思います。
 その証拠に、館林市は、E氏が5件の商標出願を行った後(2021年12月以降)に、慌てて当該キャラクターの図案と名称(「ぽんちゃん」)に関する商標出願(2件、図案:商願2022-32589号・出願日2022/3/8、名称:商願2022-91767号・出願日2022/8/8)を行っています。なお、2件の商標出願は同日の出願ではなく、何故か名称の商標出願が図面の商標出願から5か月も後になされています。(館林市がE氏と接触していたのかもしれませんが、こうなると、行政の怠慢を通り越して、もう意味がわかりません。)
 次に2点目は、名称を変更した後の館林市の対応です。具体的には、館林市は変更した名称(「たてポン」)について商標出願(商願2025-56008号・出願日2025/5/22、その後登録査定となっています)を行っているのですが、その商標出願の内容(特に、指定商品・役務の内容)が変更前の商標出願(商願2022-91767号)の内容と大きく異なったものとなっている、という点です。具体的には、両出願の内容は以下のような内容となっています。

  変更前の名称の商標出願 変更後の名称の商標出願
出願番号
(登録番号)
商願2022-91767号 商願2025-56008号
(登録第7003839号)
出願日 2022/8/8 2025/5/22
商標 ぽんちゃん たてポン
指定商品 9類 指定無し
14類 指定無し
16類 指定無し
18類 指定無し
20類 指定無し
24類 指定無し
25類 指定無し
28類 指定無し
30類 指定無し
指定役務 35類 35類
36類 36類
39類 39類
41類 41類
43類 43類

 この通り、変更前の出願では指定商品としていた9~30類の指定商品が、変更後の出願からはごっそり抜け落ちており、役務に関する指定のみに留まっているのです。特に、9類と16類は、上記(4)(5)にて館林市が名称変更を決断するきっかけになったと思われる、E氏の3件目の商標出願の指定商品として指定されているものです。つまり、館林市が当初必要としていた9類(電子出版物)や16類(文房具類)は、変更後の名称においては権利化ができていない(独占権が取得できていない)ということになっているのです。
 さらに、館林市が当初必要としていた20類(家具)については、既に第三者(住宅設備メーカー)によって商標権(登録第5225790号、登録第5225791号)が取得されてしまっています。つまり、20類(家具)については、現時点において館林市が商標権を取得することが100%不可能な状態になっているのです。
 記事では、『「たてポン」の商標登録も済ませた。』と記載されていますが、この商標権(登録第7003839号)の内容では、館林市の観光行政を遂行する上において不十分な権利ということになっていると思われます。この対応も行政の怠慢と言って差し支えないと思います。なお、館林市の出願は全て弁理士が代理人として対応しているので、弁理士としてどのようなアドバイスをしているのか、という疑問も禁じ得ません。

 最後に余談になりますが、E氏が「ぽんちゃん」の商標権取得に何故そこまで執着したのかという点についても当職は疑問に思いました。E氏の氏名は出願人として公開されていますが、氏名をインターネットで検索をしても職業や所属等の身分に関する情報が全く出てきません。館林市とどのような関係やいきさつを持っている人物なのか等、一切不明です。取得した5件の商標権の中には権利取得してから4年を経過している登録商標もありますが、関連する事業を実施しているような形跡も見当たりませんでした。
 一方、E氏は全ての商標出願を、弁理士を使わずに自分1人で行っています。3件目の商標出願に関する審決取消訴訟も裁判所相手に本人訴訟で行っています。一方、E氏が特許庁や裁判所に提出している書類は、その記載内容(書きぶり)を見ると、有資格者(弁理士や弁護士)顔負けの立派なものを作成されています。相当な専門知識を持っていると推測するのですが、インターネットで検索をしても情報が全く出てきません。

今回の事例は調べれば調べれるほど謎だらけで、また行政および代理人の行動にも本当に理解不能としか言いようのない、有り得ないレベルの話、という感想を持ちました。以上が当職の所感になります。

因みに、当職も地方自治体のキャラクターやロゴマークの権利化の代理をすることがありますが、こんな「失態」はしたことがありません(笑)。
一例として、過去の新着情報にUPした海南市の「海ニャン」の権利化の代理をしましたが、以下の対応をしております。
キャラクターの図案と名称について、事前調査をした上(ほぼ登録されるであろう事を確認した上)で図案の出願と名称の出願を同日に出願し、権利化しました。そして、その他として、海南市役所の担当者の方には、商標法第4条第1項第6号の情報提供も念のためにしてもらっています。
図案 出願日:2020/4/21、登録番号:登録第6291566号
名称 出願日:2020/4/21、登録番号:登録第6310784号
これが弁理士として当たり前の仕事と思うのですが、当職は今まで以上に気を引き締めて弁理士活動を行いたいと思います。